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春のお散歩、始める前に!〜雪解けの道南で、今すぐ知っておくべき2大リスクと春支度〜

こんにちは!函館市のオオツ動物病院です。

2月も下旬を迎え、函館の街は長い冬の終わりを告げるように、景色が日々変化していますね。先日までの真っ白な雪景色は少しずつ影を潜め、道の脇には黒く汚れた雪山が残るものの、日当たりの良い歩道ではアスファルトが顔を出し始めました。しかし、朝晩の冷え込みはまだ厳しく、溶けた雪が夜の間にツルツルに凍りつく「ブラックアイスバーン」に、ヒヤリとさせられることも多いのではないでしょうか。人間もワンちゃんも、滑って転ばないように、足元に力が入る毎日ですね。

この「冬と春のせめぎ合い」のような季節は、私たち獣医師にとって、飼い主様に一年で最も注意を呼びかけたい「特別警戒期間」の始まりでもあります。なぜなら、雪の下に隠されていた様々な危険が、春の訪れとともに一斉に牙を剥き始めるからです。

そこで今回は、「春のお散歩、始める前に!」と題して、特に北海道・道南地域で暮らす私たちが知っておくべき「春の2大リスク」を中心に、本格的な春を迎えるための準備について、詳しく、そして少しだけ獣医師としての想いを込めてお話ししたいと思います。今のうちから正しい知識を持つことで、防げる事故は確実にあります。大切な家族であるワンちゃん・ネコちゃんを守るために、ぜひ最後までお付き合いください。

【リスク1】雪解け水と土の匂い…そこに潜む静かなる脅威「エキノコックス」

春の訪れを告げる雪解け。しかし、その水たまりは、決して清らかなだけではありません。冬の間、餌を求めて人里近くまでやってきたキツネや、そのキツネを最終宿主とする野ネズミ。彼らが雪の上に残していった糞に含まれる「エキノコックス」という寄生虫の卵は、驚くべきことに氷点下の環境でも生き延び、春を待っています。

そして、雪解け水と共に広範囲に拡散し、土壌を汚染します。ワンちゃんが久しぶりの土の匂いに夢中になって地面をクンクンしたり、喉が渇いて水たまりの水をペロリと舐めてしまったり…そんな何気ない行動が、エキノコックスの卵を口にしてしまうきっかけになるのです。

エキノコックス症の恐ろしさ

エキノコックスの卵は、口から入ると腸で孵化し、幼虫(包虫)となって主に肝臓に寄生します。そして、数ヶ月〜数年という非常に長い時間をかけて、ゆっくりと肝臓を蝕んでいきます。症状が出た時には、すでに手遅れに近い状態であることも少なくありません。食欲不振、元気消失、お腹が膨れる(腹水)などの症状が見られますが、初期はほとんど無症状です。

さらに深刻なのは、この病気が人間にも感染する「人獣共通感染症(ズーノーシス)」であるという点です。ワンちゃんへの感染は、そのまま私たちの家族の健康リスクにも直結します。特に、小さなお子様がいるご家庭では、ペットとの濃厚な接触を通じて感染する可能性もゼロではありません。

今すぐ始めるべきエキノコックス対策

この見えない脅威から愛犬を守るために、以下の対策を徹底しましょう。

定期的な駆虫薬の投与:エキノコックスは、月に一度の駆虫薬でほぼ100%予防・駆除が可能です。特に、キツネや野ネズミをよく見かける地域にお住まいの場合は、通年の投与が不可欠です。冬の間、投薬をお休みしていた方は、春のお散歩を本格的に再開する前に、必ず動物病院にご相談ください。

拾い食いをさせない:お散歩中はリードを短く持ち、地面のものを口にしないように注意深く見てあげてください。もし拾い食いの癖がある場合は、今のうちからトレーニングを見直しましょう。

お散歩後のケアの徹底:帰宅後は、必ずワンちゃんの足の裏や顔周りを、きれいな水で濡らしたタオルなどで丁寧に拭いてあげてください。飼い主様自身の手洗いも忘れずに行いましょう。

【リスク2】気温13℃~が合図!雪解けと共に活動を再開する「マダニ」と感染症

「マダニは夏のもの」と思っていませんか?それは大きな間違いです。マダニは、実は真冬の極寒期を除いて、一年中活動の機会をうかがっています。そして、彼らが活動を再開する目安となる気温は、わずか13〜15℃。函館では、日中の日差しが暖かくなる3月下旬から4月には、もうこの条件を満たしてしまいます。

雪が解けて地面が見え始めた公園の茂み、笹薮、河川敷の草むら…そういった場所には、もうお腹を空かせたマダニが潜んでいます。そして、北海道のマダニは、全国的に知られるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)だけでなく、さらに恐ろしい病気を運んでくる可能性があるのです。

北海道で特に警戒すべきダニ媒介性感染症

ダニ媒介脳炎:ウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染します。発熱、頭痛といった風邪のような症状から始まり、重症化すると意識障害や麻痺などの神経症状を引き起こし、後遺症が残ったり、命を落とすこともある非常に危険な病気です。北海道は、国内でも数少ないダニ媒介脳炎の発生地域です。

ライム病:こちらもマダニが媒介する細菌感染症で、皮膚症状(遊走性紅斑)や発熱、関節炎などを引き起こします。治療が遅れると、慢性的な関節炎や神経症状に移行することもあります。

これらの病気は、一度発症すると有効な治療法がなかったり、治療が長期に及んだりすることが多く、何よりも「マダニに咬まれないこと=予防」が最も重要になります。

マダニ対策は「フライング気味」がちょうどいい

「桜が咲いてから」「ゴールデンウィークのお出かけ前に」…これでは、完全な予防は難しいです。雪解け直後の油断しがちな時期に、最初の被害に遭うケースが後を絶ちません。

予防薬はマダニが例年多くみられる地域では3月からスタート!:当院では、散歩する子には少なくとも4月からのマダニ予防薬の投薬開始を強く推奨しています。スポットタイプ、おやつタイプなど、様々な薬がありますので、その子のライフスタイルに合ったものを選びましょう。

お散歩後の全身チェックを習慣に:特に、耳、目の周り、鼻先、指の間、お腹、内股など、皮膚が薄く柔らかい場所は念入りに確認してください。

草むらには要注意:雪が解けたばかりの場所は、ワンちゃんも大喜びで駆け回りたくなりますが、なるべく草深い場所には立ち入らないようにしましょう。

もしマダニを見つけたら…:絶対に、無理に引き抜かないでください! マダニの口器が皮膚に残り、そこから化膿したり、パニックになったマダニが病原体を逆流させたりする危険があります。見つけたら、慌てず、そのままの状態で動物病院に連れてきてください。

まだある!春に潜むその他の危険

春の危険は、エキノコックスとマダニだけではありません。

有毒植物に注意:春の山菜として人気の「ギョウジャニンニク(アイヌネギ)」は、ネギ属のため犬猫には溶血性貧血を引き起こす有毒植物です。また、これとよく似た猛毒の「イヌサフラン」も大変危険です。ギョウジャニンニク、イヌサフランともに犬と猫には有毒ですので、山菜採りにワンちゃんを連れて行く際は、誤食に最大限の注意を払ってください。また、お部屋に飾るユリ科の植物は、猫にとって猛毒です。花瓶の水を飲むだけでも急性腎不全を引き起こすため、絶対に置かないようにしましょう。

化学物質の誤食:家庭菜園で使うナメクジ駆除剤(メタアルデヒド)や、春先の雑草対策で撒く除草剤は、ペットが誤って舐めてしまう事故が多発します。特にナメクジ駆除剤は甘い匂いでペットを引き寄せるため、使用や保管には厳重な管理が必要です。

お花見の「置き土産」:五稜郭公園などでのお花見シーズンが始まると、地面には焼き鳥の串や骨、玉ねぎの入った食べ残しなどが散乱します。これらは中毒や消化管閉塞の原因となり、大変危険です。

まとめ:万全の準備で、最高の春を迎えましょう

長い冬を乗り越え、ようやく訪れる道南の春。愛するペットと、その素晴らしい季節を心から楽しむために、私たち飼い主ができる準備はたくさんあります。

まだ少し肌寒い日が続きますが、春はもうすぐそこです。万全の準備でリスクをしっかり管理し、最高の笑顔で、函館の美しい春を迎えましょう。何か心配なこと、ご不明な点があれば、どんな些細なことでも構いません。いつでもお気軽にオオツ動物病院にご相談ください。