こんにちは!函館市富岡町のオオツ動物病院です。
2月も下旬、雪解けが進む函館では、春の訪れと同時に様々な危険が顔を出し始めます。この季節は、私たち獣医師にとって、飼い主様に最も注意を呼びかけたい「特別警戒期間」です。
そこで今回は、「春のお散歩、始める前に!」と題して、特に道南地域で注意すべき春の3つの重要リスクについて、詳しく解説します。今のうちから正しい知識で備え、大切な家族であるワンちゃん・ネコちゃんを危険から守りましょう。
【リスク1】雪解け水と土の匂い…そこに潜む静かなる脅威「エキノコックス」
春の訪れを告げる雪解け。しかし、その水たまりは、決して清らかなだけではありません。冬の間、餌を求めて人里近くまでやってきたキツネや野ネズミ。特にキツネが雪の上に残していった糞に含まれる「エキノコックス」という寄生虫の卵は、驚くべきことに氷点下の環境でも生き延び、春を待っています。
そして、雪解け水と共に広範囲に拡散し、土壌を汚染します。ワンちゃんが久しぶりの土の匂いに夢中になって地面をクンクンしたり、喉が渇いて水たまりの水をペロリと舐めてしまったり…そんな何気ない行動が、エキノコックスの卵を口にしてしまうきっかけになるのです。
エキノコックス症の恐ろしさ
エキノコックスの卵は、口から入ると腸で孵化し、幼虫(包虫)となって主に肝臓に寄生します。そして、数ヶ月〜数年という非常に長い時間をかけて、ゆっくりと肝臓を蝕んでいきます。症状が出た時には、すでに手遅れに近い状態であることも少なくありません。食欲不振、元気消失、お腹が膨れる(腹水)などの症状が見られますが、初期はほとんど無症状です。
さらに深刻なのは、この病気が人間にも感染する「人獣共通感染症(ズーノーシス)」であるという点です。ワンちゃんへの感染は、そのまま私たちの家族の健康リスクにも直結します。特に、小さなお子様がいるご家庭では、ペットとの濃厚な接触を通じて感染する可能性もゼロではありません。
今すぐ始めるべきエキノコックス対策
この見えない脅威から愛犬を守るために、以下の対策を徹底しましょう。
定期的な駆虫薬の投与:エキノコックスは、月に一度の駆虫薬でほぼ100%予防・駆除が可能です。特に、キツネや野ネズミをよく見かける地域にお住まいの場合は、通年の投与が推奨されます。冬の間、投薬をお休みしていた方は、春のお散歩を本格的に再開する前に、必ず動物病院にご相談ください。
拾い食いをさせない:お散歩中はリードを短く持ち、地面のものを口にしないように注意深く見てあげてください。もし拾い食いの癖がある場合は、今のうちからトレーニングを見直しましょう。
お散歩後のケアの徹底:帰宅後は、必ずワンちゃんの足の裏や顔周りを、きれいな水で濡らしたタオルなどで丁寧に拭いてあげてください。飼い主様自身の手洗いも忘れずに行いましょう。
【リスク2】気温13℃が合図!雪解けと共に活動を再開する「マダニ」と感染症

「マダニは夏のもの」と思っていませんか?それは大きな間違いです。マダニは、実は真冬の極寒期を除いて、一年中活動の機会をうかがっています。そして、彼らが活動を再開する目安となる気温は、わずか13〜15℃。函館では、日中の日差しが暖かくなる3月下旬から4月には、もうこの条件を満たしてしまいます。
雪が解けて地面が見え始めた公園の茂み、笹薮、河川敷の草むら…そういった場所には、もうお腹を空かせたマダニが潜んでいます。そして、北海道のマダニは、全国的に知られるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)だけでなく、さらに恐ろしい病気を運んでくる可能性があるのです。
北海道で特に警戒すべきダニ媒介性感染症
ダニ媒介脳炎:ウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染します。発熱、頭痛といった風邪のような症状から始まり、重症化すると意識障害や麻痺などの神経症状を引き起こし、後遺症が残ったり、命を落としたりすることもある非常に危険な病気です。北海道は、国内でも数少ないダニ媒介脳炎の発生地域です。
ライム病:こちらもマダニが媒介する細菌感染症で、皮膚症状(遊走性紅斑)や発熱、関節炎などを引き起こします。治療が遅れると、慢性的な関節炎や神経症状に移行することもあります。
これらの病気は、一度発症すると有効な治療法がなかったり、治療が長期に及んだりすることが多く、何よりも「マダニに咬まれないこと=予防」が最も重要になります。
マダニ対策は「フライング気味」がちょうどいい
「桜が咲いてから」「ゴールデンウィークのお出かけ前に」…これでは、残念ながら手遅れです。雪解け直後の油断しがちな時期に、最初の被害に遭うケースが後を絶ちません。
予防薬は3月からスタート!:当院では、3月からのマダニ予防薬の投薬開始を強く、強く推奨しています。スポットタイプ、おやつタイプなど、様々な薬がありますので、その子のライフスタイルに合ったものを選びましょう。
お散歩後の全身チェックを習慣に:特に、耳、目の周り、鼻先、指の間、お腹、内股など、皮膚が薄く柔らかい場所は念入りに確認してください。
草むらには要注意:雪が解けたばかりの場所は、ワンちゃんも大喜びで駆け回りたくなりますが、なるべく草深い場所には立ち入らないようにしましょう。
もしマダニを見つけたら…:絶対に、無理に引き抜かないでください! マダニの口器が皮膚に残り、そこから化膿したり、パニックになったマダニが病原体を逆流させたりする危険もあるそうです。見つけたら、慌てず、そのままの状態で動物病院に連れてきてください。
【リスク3】春の彩りに潜む罠…特に注意したい中毒症状

春は、色とりどりの花が咲き、生き物たちが活動を始める美しい季節です。しかし、その美しい風景の中には、ペットにとって命に関わる危険な「毒」が数多く隠されています。
猫の飼い主様へ:絶対に知っておくべき「ユリ中毒」
春のフラワーアレンジメントや、お庭を彩るユリ科の植物(ユリ、チューリップ、ヒヤシンスなど)。これらは、猫にとって猛毒です。特にユリは、花、葉、茎、花粉、そしてユリを生けていた水に至るまで、全ての部分が猫に急性腎不全を引き起こします。ほんの少し口にしただけでも、数時間以内に嘔吐や食欲不振が始まり、適切な治療が遅れれば命を落とす、非常に恐ろしい中毒です。猫を飼っているご家庭では、ユリ科の植物を室内に持ち込まない、庭に植えないことを徹底してください。
春の山菜と毒草:ギョウジャニンニクとイヌサフラン
道南の春の味覚、ギョウジャニンニク(アイヌネギ)。しかし、このギョウジャニンニクは、ニンニクやネギと同じユリ科ネギ属の植物です。これらに含まれる「アリルプロピールジサルファイド」という成分は、犬や猫の赤血球を破壊し、溶血性貧血を引き起こします。血尿、黄疸、ふらつきなどの症状が見られ、重症化すると命に関わります。人間にとっては美味しい山菜も、ペットにとっては毒なのです。
さらに厄介なのが、ギョウジャニンニクと間違えて採取されやすいイヌサフランです。こちらは「コルヒチン」という猛毒を含み、人間でも死に至る危険な植物。ペットが口にすれば、激しい嘔吐や下痢、呼吸困難などを引き起こし、極めて致死率が高い中毒です。山菜採りに行かれるご家庭では、持ち帰った山菜の管理に十分注意し、ペットも人も絶対に口にしないようにしてください。
お庭や公園に潜むその他の危険植物
スズラン:可愛らしい見た目とは裏腹に、強心配糖体という毒を含み、嘔吐や不整脈、心不全を引き起こすことがあります。
チューリップ:特に球根に毒成分が多く含まれます。庭の植え替えなどで掘り起こした球根を、ワンちゃんが遊びでかじってしまわないように注意が必要です。
暖かくなると出てくる危険な生き物
ドクガ(チャドクガ):ツバキやサザンカの木に発生する毛虫です。その毒針毛は、直接触れなくても風で飛んできて皮膚炎を引き起こします。好奇心旺盛なワンちゃんが顔を近づけて、目や口の周りに激しい炎症を起こすことがあります。
マムシ:函館近郊の山林や草むらにも生息しています。咬まれると激しい痛みと腫れを引き起こし、血圧低下や呼吸困難など、全身症状に発展することもあります。草深い場所には近づかないのが一番の予防です。
家庭菜園やガーデニングに潜む化学物質
ナメクジ駆除剤:主成分の「メタアルデヒド」は、甘い匂いでペットを誘引しやすく、誤食すると激しい痙攣や高熱を引き起こす非常に危険な中毒です。使用する場合は、ペットが絶対に近づけない場所に設置してください。
除草剤:製品によって成分は様々ですが、中にはペットに有害なものも含まれます。散布されたばかりの草の上を散歩して、その足を舐めてしまうことで中毒を起こす可能性があります。公園などで除草剤散布の看板を見かけたら、その日は別のルートでお散歩しましょう。
まとめ:万全の準備で、最高の春を迎えましょう
長い冬を乗り越え、ようやく訪れる道南の春。愛するペットと、その素晴らしい季節を心から楽しむために、私たち飼い主ができる準備はたくさんあります。
【春のお散歩、始める前に!チェックリスト】
- マダニ予防薬の準備はOK?(3月からのスタートが理想です!)
- エキノコックス駆虫薬の準備はOK?(特に野山に行く機会が多い子は必須)
- 拾い食い防止の意識はOK?(リードは短く、常に足元に注意を!)
- お散歩後の足拭き・ブラッシングは習慣になっていますか?
- 緊急時の連絡先(当院や夜間病院)はすぐにわかりますか?
まだ少し肌寒い日が続きますが、春はもうすぐそこです。万全の準備でリスクをしっかり管理し、函館の楽しい春を迎えましょう。何か心配なこと、ご不明な点があれば、どんな些細なことでも構いません。いつでもお気軽にオオツ動物病院にご相談ください。