函館・北斗市および道南エリアにお住まいの飼い主様へ
道南の豊かな自然は、ペットと暮らす私たちにとって最高の環境です。しかし、その自然の中には、大切な家族の命を脅かす目に見えない危険が潜んでいます。それが寄生虫です。
特に、この地域で警戒すべきは「フィラリア」「マダニ」、そして北海道特有の「エキノコックス」。これらは、時に重篤な病気を引き起こし、命に関わることもある深刻な寄生虫です。
「室内飼いだから」「去年もやったから」という油断は禁物です。この記事では、なぜ予防が必要なのか、そして具体的な方法を分かりやすく解説します。あなたの大切な家族を守るため、ぜひご一読ください。
フィラリア — 蚊が運ぶ、心臓に忍び寄る静かな脅威
フィラリア症とは?
フィラリア症とは、犬糸状虫というそうめんのような寄生虫が、蚊を介してペットの体内に入り込み、心臓や肺動脈に寄生する恐ろしい病気です。蚊が感染動物の血を吸い、その体内で育った幼虫が、次に吸血したあなたのペットの体内へと侵入します。数ヶ月かけて心臓に到達した成虫は、血液の流れを妨げ、咳、息切れ、腹水などの症状を引き起こし、最悪の場合は死に至ります。感染後の治療は、ペットの体に大きな負担をかけるだけでなく、高額な費用と長い期間を要します。何より、治療を行っても完全に元の健康な状態に戻れるとは限らないのです。
「猫はフィラリアに感染しない」は大きな誤解
「フィラリアは犬の病気」と思われがちですが、猫も感染します。 猫は犬に比べて寄生されにくいものの、たとえ少数の寄生でも突然死の原因となり得ます。咳や喘息のような症状が、実はフィラリアによるものだったというケースも少なくありません。さらに、猫のフィラリア症には有効な治療薬が存在しません。 感染してしまえば、根本的な治療は不可能なのです。だからこそ、猫にとって予防は「命を守るための唯一の手段」と言えます。マンションの高層階にお住まいでも、エレベーターや人の出入りに乗じて蚊は侵入してきます。「うちの子は絶対に大丈夫」という保証はどこにもないのです。
道南エリアでの予防期間:なぜ「6月〜11月」なのか?
フィラリア予防薬は、感染を防ぐのではなく、体内に侵入した幼虫を心臓に到達する前に駆除する「後追い型の駆虫薬」です。道南では、蚊がフィラリアを媒介し始めるのが6月頃から、活動が終わるのが10月頃です。予防薬は、感染の可能性がある最後の月(10月)から、さらに1ヶ月後まで投与を続ける必要があります。10月末に蚊に刺された場合でも、11月の投薬で確実に駆除するためです。この「最後の1回」が非常に重要になります。
当院では安全を優先し「6月(5月末)から11月まで」の月1回の投薬を推奨しています。また、特に前年度のフィラリア予防が不十分な方、フィラリア感染に不安がある方には予防開始前に、血液検査によるフィラリアの検査をお願いしております。感染してしまってフィラリア症となっている犬に予防薬を投与すると、ショック症状を起こす危険性があります。そのため自己判断での中断や再開は大変危険ですのでおやめください。
マダニ — 人にもうつる病気を運ぶ、身近な危険
草むらに潜む吸血鬼
春から秋にかけて、散歩道の草むらにはマダニが潜んでいます。公園、河川敷、山林など身近な場所に生息し、犬や猫、そして人間に飛び移り吸血します。特に耳、顔周り、首、脇、指の間などを好み、数日間吸血を続けると小豆ほどの大きさに膨れ上がります。散歩後はこれらの場所の被毛をかき分け、皮膚までしっかり確認する習慣をつけましょう。
マダニが運ぶ、本当に怖い「病気」
マダニの真の恐ろしさは、それが媒介する感染症にあります。近年、道内でも感染例が報告されている「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」は、ウイルスを持つマダニに咬まれることで人にもペットにも感染し、命を落とすこともある危険な病気です。そして函館市ではSFTSの感染報告はありませんが、人でのダニ媒介脳炎の報告があります。その他にも、ライム病や日本紅斑熱など、様々な病気を媒介することが知られています。マダニ予防は、ペットだけでなく、飼い主様ご自身の健康を守るためにも極めて重要です。
マダニを見つけたら?絶対にやってはいけないこと
もし体にマダニを見つけても、絶対に自分で無理に取ろうとしないでください。 慌てて引っ張るとマダニの口器が皮膚に残り化膿したり、病原体を体内に押し込んでしまったりする危険があります。何もせず、そのままの状態ですぐに動物病院に連れてきてください。
道南でのマダニの活動は3月中旬から11月頃まで続きます。特に活動が活発になる春と秋は、厳重な注意が必要です。この期間はマダニ予防も徹底しましょう。
エキノコックス —
北海道だからこそ知っておくべきリスク
「キツネの病気」では済まされない
北海道特有の寄生虫「エキノコックス」は、主にキタキツネや野ネズミを介して人間に感染し、肝臓に重い障害を引き起こします。犬は、エキノコックスの幼虫が寄生した野ネズミを食べることで感染し、糞便と共に虫卵を排泄しますが、犬自身に症状はほとんど出ません。しかし、その虫卵を人間が口にすることで、人のエキノコックス症が引き起こされるのです。愛犬の感染は、飼い主を含めた周囲の人達への感染リスクを高め、周囲の人の健康を大きく損なう危険性があります。猫も同様に野ネズミを捕食する可能性があるため、注意が必要です。
愛犬と家族を守るためのルール
野生動物との距離が近い道南では、以下のルールが重要です。
- 犬を放し飼いにしない(散歩中は必ずリード着用)。
- 野ネズミやその死骸に近づけさせない。
- 散歩後は足やお尻周りをきれいに拭く。
- 糞便処理後は必ず石鹸で手を洗う。
- 定期的に駆虫薬を投与する。
山や川など、キツネが出没する場所によく行く犬は特に注意が必要です。エキノコックスの駆虫成分を含む予防薬もありますので、ライフスタイルに合わせて最適な薬を選びましょう。糞便の処理後や、ペットを撫でた後、食事の前には必ず手を洗うことを徹底してください。
新製品 クレデリオⓇクワトロ
2026年にエキノコックス(多包条虫)を駆虫することが可能な犬のオールインワンの駆虫薬、クレデリオⓇクワトロが発売されました。エキノコックスを駆虫するための薬効成分であるプラジカンテルは苦く、投薬には不向きな印象がありましたが苦みを抑えた動物由来たんぱく不使用の錠剤となっています。特に外出が多く、旅行やドッグランに行かれる機会が多い方にお勧めしております。
あなたのペットに最適な予防プランは?
では、具体的にどのような予防をすれば良いのでしょうか。最適なプランは、ペットの「生活スタイル」によって異なります。
| タイプ | 対象 | 生活スタイル | 推奨される予防 | 予防期間の目安 |
| タイプA | 犬 | 毎日お散歩、公園・山・キャンプによく行く活発な子 | フィラリア+マダニ(+エキノコックス) | 3月~11月 |
| タイプB | 犬 | 主に屋内だが、近所を散歩する子 | フィラリア+マダニ | 3月~11月 |
| タイプC | 犬 | ほぼ屋内(ベランダに出る程度)の子 | フィラリア | 6月~11月 |
| タイプD | 猫 | 完全室内飼いで外に出ない子 | フィラリア | 6月~11月 |
| タイプE | 猫 | 外出する、脱走癖がある子 | フィラリア+マダニ | 3月~11月 |
これはあくまで一般的な目安です。室内飼いでも、蚊は部屋に侵入しますし、人の衣服にマダニが付着して持ち込まれる可能性もあります。現在では、フィラリア、マダニ、ノミ、お腹の虫などを1つのお薬でまとめて予防できる便利なタイプのお薬も数多くあります。食いしん坊な子にはおやつ感覚で与えられる経口のチュアブルタイプ、投薬が苦手な子や食事性アレルギーのある子には首筋に垂らすスポットタイプなど、その子の性格や体質に合わせて選ぶことができます。
どの予防薬が最適か、ぜひ一度、動物病院でご相談ください。体重や年齢、健康状態、ライフスタイルを総合的に考慮し、ベストな予防プランを一緒に考えさせていただきます。
最後に
寄生虫の予防は、年に一度のワクチン接種と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なペットの健康管理です。そして、それは決して難しいことではありません。毎月の定期的な投薬。その少しの手間が、取り返しのつかない病気からあなたの大切な家族を守ります。「予防医療」は病気を未然に防ぐための、効果的で愛情のこもった医療です。
動物病院は、病気の時に行くだけの場所ではありません。皆様の大切な家族の健康を守り、幸せな毎日をサポートするパートナーです。この春、新しい予防シーズンが始まります。ご不明な点があれば、どんな些細なことでも構いません。お気軽に当院までご相談ください。道南のすべての動物たちが、健やかで幸せな毎日を送れるよう、スタッフ一同、全力でサポートさせていただきます。