【獣医師監修】 猫の嘔吐 症状からみる危険度セルフチェックガイド

愛猫の嘔吐は、日常的に遭遇することの多い症状の一つですが場合によっては飼い主様にとって非常に心配な状況を作り出すこともあります。猫は比較的よく吐く動物と言われています。しかし、その原因は毛玉を吐き出すといった生理的なものから、命に関わる重大な病気まで多岐にわたります。

例えば夜間救急での対応を行っていると「救急に連れていくべきか、朝まで待って一般外来に行くべきか」を悩まれる飼い主様が数多くいらっしゃいます。このコラムでは緊急性の高い嘔吐症状か、一般外来で検査が必要な嘔吐症状かを見分ける当院の判断基準をご紹介しようと思います。愛猫の様子を冷静に観察し、適切な対応をとるための参考にしてください。ただし、緊急性がなさそうであっても心配な場合は必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

コラムの内容

  • まず知って欲しい、夜間救急と一般外来の使い分け
  • 緊急性が高く、直ちに病院へ行くべき「嘔吐」の症状とは?
  • 緊急性は低いが、一般外来で検査・治療が必要な「嘔吐」の症状
  • 動物病院ではどんなことをするの?検査・治療の流れ
  • まとめ

まず知って欲しい、夜間救急と一般外来の使い分け

夜間救急のメリットは何といっても時間経過とともに急激に症状が悪化する可能性がある子にすぐに必要な処置を行えることです。酸素吸入が必要になる肺炎や肺水腫、中毒性物質の誤飲、腹腔内腫瘍による血腹や胃捻転などの緊急性を要する疾患では時間経過により状況が極めて悪化し、命を落とす危険性が高まるため一般外来が始まる時間まで待つことは非常に危険です。どこからが緊急性が高い状態なのか?を簡単な言葉で的確に伝えることは難しいので、今後のコラムでひとつずつ紹介していこうかと思います。

当院における夜間救急のデメリットは、夜間救急は基本的に獣医師一人での対応になるために細やかな検査が難しい点にあります。なので緊急性を伴わない疾患であれば一般外来で来院された方が的確かつ安全に検査を行う事が出来ます。当院では夜間救急での来院時であっても必要であれば愛猫の状況により獣医師複数名と動物看護師で緊急手術や処置を行っておりますのでご安心ください。

緊急性が高く、直ちに病院へ行くべき「嘔吐」の症状とは?

緊急性のある「嘔吐」症状のポイントは以下の通りと考えてください。

  • 強い嘔吐症状がみられる場合
  • 体温や意識状態、呼吸状態の変化など強い全身症状がみられる場合
  • 強い腹部痛がみられる場合
  • 異物や中毒物質を食べた可能性がある場合

以下の症状が一つでも見られる場合は、夜間や休日であっても、ためらわずに救急をはじめ対応可能な動物病院へ連絡し、指示を仰ぐことをお勧めします。

主な症状

嘔吐の性状:

  • 1日に何度も激しく吐く
  • 吐いたものに大量の血液が混じる(鮮血、または黒褐色の吐瀉物)
  • 吐いたものから異常な臭いがする(便の臭いやアンモニア臭)
  • 吐こうとするが何も出ない空嘔吐を繰り返す

全身症状:

  • ぐったりして起き上がれない、呼びかけへの反応が鈍い(虚脱・ショック状態)
  • 意識が朦朧としている、あるいはけいれん発作を起こしている
  • 高熱(40℃以上)がある、または異常な低体温(特に手足が冷たい)
  • 呼吸が異常に速い、または口を開けて呼吸していて苦しそう(開口呼吸)
  • 歯茎や舌の色が白い、または紫色(粘膜蒼白、チアノーゼ)
  • 激しい下痢を伴う
  • 食欲がほとんど、またはまったくない状態が続いている
  • よだれをダラダラと垂らしている

腹部の症状:

  • お腹がパンパンに張っている(腹部膨満)
  • 触ると鳴く、怒るなど、強い痛がる素振りを見せる

強い嘔吐が主症状の場合に考えられる主な原因

  • 異物の誤飲による腸閉塞や消化管穿孔
  • 中毒(ユリなどの植物、人間の薬、化学物質など)
  • 急性膵炎
  • 重度の臓器不全(急性腎不全、尿毒症、肝不全など)や腫瘍など
  • ウイルス感染症(猫パルボウイルス感染症など)
  • 消化管の腫瘍や重度の胃腸炎
  • 腸重積

緊急性は低いが、一般外来で検査・治療が必要な「嘔吐」の症状

ここでは直ちに命の危険があるわけではありませんが、何らかの病気が隠れており、放置すると悪化する可能性がある場合の嘔吐の症状をご紹介します。数日中に動物病院を受診し、原因を特定するための検査と適切な治療を受けましょう。

一般外来で検査・治療を行うべき「嘔吐」の症状は、強い嘔吐あるいは全身症状はみられないものの慢性的あるいは反復的な嘔吐が繰り返される場合になります。ただし体力や抵抗力の弱い子猫や老猫の場合は要注意、低血糖や低体温などを伴い場合によっては緊急性の高いものになる場合があります。

主な症状

嘔吐の性状:

  • 週に何度も吐く、または何日も連続して吐く(慢性嘔吐)
  • 吐いたものに少量の血液が混じる状態が続く
  • 食後毎回のように吐く(食後30分以上経過して)

全身症状:

  • 元気や食欲が以前より落ちてきている(完食しない、遊びたがらないなど)
  • 軟便や下痢を伴うことがある
  • 以前と比べ体重が減ってきた
  • 毛ヅヤが悪くなった
  • 水を異常にたくさん飲む、おしっくる量が量が増えた(多飲多尿)など

嘔吐が主症状の場合に考えられる主な原因

  • 慢性腎臓病
  • 甲状腺機能亢進症
  • 炎症性腸疾患(IBD)や慢性胃腸炎
  • 消化管内寄生虫(回虫など)
  • 食物アレルギー、食物不耐症
  • 肝臓や胆管の疾患(胆管炎など)
  • 腫瘍
  • 環境変化によるストレス

動物病院ではどんなことをするの?検査・治療の流れ

「病院で何をされるんだろう?」と不安に感じる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。ここでは、動物病院において嘔吐で受診された際に行う一般的な検査や治療の流れをご説明します。

  1. 問診: 飼い主様から、嘔吐の状況(いつから、回数、吐いたものの内容や色など)、元気や食欲、普段の食事内容、誤食の可能性などについて詳しくお話を伺います。診断のための最も重要な情報となりますので、できるだけ詳しく教えてください。可能であれば、吐いたものの写真や実物をお持ちいただくと非常に参考になります。
  2. 身体検査: 聴診、触診、体温測定などを行い、全身の状態をチェックします。脱水の程度、リンパ節の腫れや腹痛の有無などを確認します。
  3. 血液検査: 体の内部で何が起こっているかを知るための重要な検査です。炎症の程度、脱水、貧血、内臓(腎臓、肝臓、膵臓など)の機能に異常がないかを調べます。高齢の猫では甲状腺ホルモンの測定を行うこともあります。
  4. 画像検査(レントゲン・エコー): レントゲン検査では、異物の誤飲や腸閉塞の有無、臓器の形や大きさを確認します。エコー(超音波)検査では、お腹の中の臓器の内部構造や腸の動き、腫瘍の有無、膵炎の兆候などを詳しく調べることができます。
  5. 糞便検査: 便を顕微鏡で観察し、寄生虫やその卵、異常な細菌がいないかなどを調べます。嘔吐に加えて下痢がある場合、寄生虫感染が疑われる場合に行います。
  6. その他の検査: 上記の検査で診断がつかない場合、内視鏡検査(胃カメラ)を行って胃や腸の粘膜を直接観察したり、より詳しく調べるために鎮静下での穿刺吸引や麻酔管理下での試験開腹による細胞、組織を採取して調べる病理検査などを行うことがあります。

主な治療法

検査結果に基づき、猫さんの状態や原因に合わせた治療を行います。

内科療法:

  • 点滴療法: 嘔吐によって失われた水分や電解質を補給し、脱水を改善します。皮下点滴や静脈点滴を行います。
  • 薬物療法: 制吐剤(吐き気止め)、胃酸分泌抑制剤、粘膜保護剤、抗生剤などを症状や原因に応じて使用します。
  • 食事療法: 消化の良い療法食に変更したり、食物アレルギー対応食を試したりします。空腹時の嘔吐の場合は、食事の回数を増やす指導を行うこともあります。

外科手術:

  • 異物の誤飲による腸閉塞や、腫瘍などが原因の場合は、緊急手術が必要になることがあります。

費用の目安

初診料と基本的な検査(血液検査、レントゲン検査、エコー検査など)で、5,000円〜20,000円程度が目安となります。ただし、夜間救急や、特殊な検査(内視鏡など)、入院・手術が必要な場合は、費用が大きく変動します。追加で詳しい検査や処置が必要な場合は、必ず事前に獣医師から丁寧にご説明し、ご納得いただいてから進めますのでご安心ください。

まとめ

猫の嘔吐は、日常的によく見られる症状ですが、その裏には様々なサインが隠されている場合があります。「猫はよく吐く動物だから」と見過ごされがちですが、それ以上に大切なことは「嘔吐」が「単なる生理現象」ではなく「隠された疾患からのサイン」である場合、いち早く気付き対応することであると思います。

その為にも飼い主様が日頃から愛猫の「普段の状態(吐く頻度、元気、食欲、体重など)」をよく観察し、変化にいち早く気づいてあげること、それを当院が提供できる獣医療とうまく連携させ飼い主の皆様とその可愛い家族(達)の生活の質を向上させることが今回のコラムの目的となります。このガイドを参考に、危険なサインを見逃さず、愛猫の健康を守ってあげてください。また判断に迷った場合は、自己判断で様子を見過ぎず、かかりつけの動物病院に相談することが最も安全な選択です。

この情報は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の猫の診断や治療に代わるものではありません。愛猫の健康状態に関する具体的な問題については、必ず獣医師の診察を受けてください。

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