「嘔吐」の症状は全年齢において最も多くみられる症状のひとつで、愛犬の嘔吐の対応に悩まされた事のある飼い主様は非常に多いと思われます。
例えば当院でも夜間救急の対応をしていると電話越しに「今すぐ連れていった方がいいのか?」と悩まれている飼い主様が多くいらっしゃいます。
今回はこのコラムにて夜間救急にすぐ来るべきか、一般外来の開始まで待って丁寧な検査をした方がいいのか、それぞれのメリット・デメリットをお伝えし、少しでも夜間に抱える不安な気持ちを解消できるよう、「犬の嘔吐」の緊急性に関する当院の判断基準をお伝えしようと思います。
愛犬の様子を冷静に観察し、適切な対応をとるための参考にしてください。
ただし、緊急性がなさそうであっても心配な場合は必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
コラムの内容
- まず知って欲しい、夜間救急と一般外来の使い分け
- 緊急性が高く、直ちに病院へ行くべき「嘔吐」の症状とは?
- 緊急性は低いが、一般外来で検査・治療が必要な「嘔吐」の症状
- 動物病院ではどんなことをするの?検査・治療の流れ
- まとめ
◇まず知って欲しい、夜間救急と一般外来の使い分け
夜間救急のメリットは何といっても時間経過とともに急激に症状が悪化する可能性がある子にすぐに必要だと思われる処置を行えることです。
酸素吸入が必要になる肺炎や肺水腫、中毒性物質の誤飲、腹腔内腫瘍による血腹や胃捻転などの緊急性を要する疾患では時間経過により状況が極めて悪化する場合が多く、命を落とす危険性が高まるため一般外来が始まる時間まで待つことは非常に危険です。
どこからが緊急性が高い状態なのか?を簡単な言葉で的確に伝えることは難しいので、今後のコラムでひとつずつ紹介していこうかと思います。
当院における夜間救急のデメリットは、救急対応は基本的に獣医師一人での対応になるために細やかな検査が難しい点にあります。なので緊急性を伴わない疾患であれば一般外来で来院された方が的確かつ安全に検査を行う事が出来ます。
当院では夜間救急での来院時であっても必要であれば愛犬の状況により獣医師複数名と動物看護師で緊急手術や処置を行っておりますのでご安心ください。
◇緊急性が高く、直ちに病院へ行くべき「嘔吐」の症状とは?
緊急性のある「嘔吐」の症状のポイントは
- 強い嘔吐症状がみられる場合
- 体温や意識状態、呼吸状態の変化など強い全身症状がみられる場合
- 強い腹部痛がみられる場合
- 異物や中毒物質を食べた可能性がある場合 と考えてください。
以下の症状が一つでも見られる場合は、夜間や休日であっても、ためらわずに救急対応可能な動物病院へ連絡し、指示を仰ぐことをお勧めします。
緊急性が高いと考えられる場合の主な症状
嘔吐の性状:
- 嘔吐物に大量の血液(赤色、黒褐色~暗赤色)が混じる
- 短時間に何度も苦しそうに繰り返し吐き続ける
- 水を飲んだだけでも苦しそうに吐いてしまう
全身症状:
- ぐったりして起き上がれない、呼びかけへの反応が鈍い(虚脱・ショック状態)
- 意識が朦朧としている、あるいはけいれん発作を起こしている
- 高熱(40℃以上)がある、または異常な低体温
- 呼吸が異常に速い、または苦しそう
- 歯茎や舌の色が白い、または紫色(粘膜蒼白、チアノーゼ)
- 食欲がほとんど、またはまったくない状態が続いている
腹部の症状:
- お腹がいつもより張っている(腹部膨満)
- 触るとキャンと鳴くなど、強い痛がる素振りを見せる
強い嘔吐が主症状の場合に考えられる主な原因
- 胃捻転・胃拡張症候群
- 異物の誤飲による腸閉塞や消化管穿孔
- 中毒(タマネギ、チョコレート、不凍液、殺鼠剤など)
- 急性膵炎
- ウイルス感染症(犬パルボウイルス感染症など)
- 重度の急性出血性胃腸炎
- 消化管の腫瘍破裂
- 重度の臓器不全(腎不全、肝不全など)や腫瘍など
◇緊急性は低いが、一般外来で検査・治療が必要な「嘔吐」の症状
ここでは直ちに命の危険があるわけではありませんが、何らかの病気が隠れており、放置すると悪化する可能性がある場合の嘔吐の症状をご紹介します。
数日中に動物病院を受診し、原因を特定するための検査と適切な治療を受けましょう。
一般外来で検査・治療を行うべき「嘔吐」の症状は、強い嘔吐あるいは全身症状はみられないものの慢性的あるいは反復的な嘔吐が繰り返される場合になります。
ただし体力や抵抗力の弱い子犬や老犬の場合は要注意、低血糖や低体温などを伴い場合によっては緊急性の高いものになる場合があります。
緊急性は低いが、一般外来に来ることが推奨される主な症状
嘔吐の性状:
- 週に数回、嘔吐を繰り返す(慢性的・反復性嘔吐)
- 食後数時間経ってから未消化のフードを吐くことが増えた
全身症状:
- 元気や食欲が以前より落ちた(食いつきが悪くなった、散歩を嫌がる)
- 以前と比べ体重が減ってきた
- 軟便や下痢を伴うことがある
- 毛ヅヤが悪くなった
- 落ち着かない状態が増えた
- 水を異常にたくさん飲む、おしっこの量が増えた(多飲多尿)など
嘔吐が主症状の場合に考えられる主な原因
- 慢性胃腸炎、炎症性腸疾患(IBD)
- 食物アレルギー、食物不耐症
- 慢性膵炎
- 腎臓病、肝臓病
- 消化管内寄生虫
- 胃や腸の腫瘍(特に高齢の場合)
- ストレス
◇動物病院ではどんなことをするの?検査・治療の流れ
「病院で何をされるんだろう?」と不安に感じる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。ここでは、当院において嘔吐で受診された際に行う一般的な検査や治療の流れをご説明します。
- 問診: 飼い主様から、嘔吐の状況(いつから、回数、吐物の内容など)、元気や食欲、普段の食事内容、誤食の可能性などについて詳しくお話を伺います。診断のための最も重要な情報となりますので、できるだけ詳しくお答えください。
- 身体検査: 聴診、触診、体温測定などを行い、全身の状態をチェックします。脱水の程度や疼痛の有無、口腔内の異常、心雑音や肺雑音の有無などを確認します。
- 血液検査: 体の内部で何が起こっているかを知るための重要な検査です。炎症の程度、脱水、貧血、内臓(肝臓、腎臓、膵臓など)の機能に異常がないかを調べます。
- 画像検査(レントゲン・エコー): レントゲン検査では、異物の誤飲や腸閉塞、胃拡張・胃捻転の有無などを確認します。腸管の明らかな閉塞がみられない場合バリウム検査で閉塞の有無を確認することがあります。エコー(超音波)検査では、お腹の中の臓器の状態や消化管の動き、腫瘍の有無などをより詳しく調べることができます。
- 糞便検査・尿検査: 嘔吐の原因によっては、寄生虫や細菌、腎臓の問題などを調べるためにこれらの検査を行うことがあります。必要に応じてPCR検査をご提案させていただく場合もございます。
- その他の検査: 上記の検査で診断がつかない場合、より詳しく調べるために内視鏡検査(胃カメラ)や、穿刺吸引や試験回復による細胞、組織を採取して調べる病理検査などを行うことがあります。
主な治療法
検査結果に基づき、わんちゃんの状態に合わせた治療を行います。
内科療法:
- 点滴療法: 脱水や電解質の異常を補正します。嘔吐が激しい場合は絶食・絶水とし、点滴で水分の補給をします。
- 薬物療法: 制吐剤(吐き気止め)、胃酸分泌抑制剤、消化管運動改善薬、消化管粘膜保護剤、抗生剤などを症状や原因に応じて使用します。
- 食事療法: 状況に応じて消化の良い療法食や、アレルギー対応食のご提案をします。
外科手術:
- •異物誤飲による閉塞や、胃捻転、腸重積、腫瘍などが原因の場合は、緊急手術が必要になることがあります。
費用の目安
初診料と基本的な検査(血液検査、画像検査など)で、5,000円〜20,000円程度が目安となります。
ただし、夜間救急や、特殊な検査(内視鏡やバリウム検査など)、入院・手術が必要な場合は、費用が大きく変動します。
追加で詳しい検査や処置が必要な場合は、必ず事前に獣医師からご説明し、ご納得いただいてから進めますのでご安心ください。
◇まとめ
犬の嘔吐は日常的によく見られる症状ですが、その裏には様々なサインが隠されてる場合があります。
嘔吐の症状自体を止めることは大事なことですが、それ以上に大切なことは「嘔吐」が「単なる症状」ではなく「隠された疾患からのサイン」である場合、いち早く気付き対応することです。犬の場合は中高齢から内臓機能の低下や、腫瘍や慢性炎症による内臓の構造変化がみられるようになることがあります。
苦しくなる前に愛犬の異変に気付き、病気を治すきっかけを作れるのは愛犬のそばにいる飼い主様だけです。中高齢からは可能であれば毎年1~2回の定期検査を行ってあげてください。
今回のコラムで飼い主の皆様に「嘔吐」に関連する症状で愛犬のすぐに夜間救急に行くべき危険な状態と一般外来で検査・治療を行うべき「嘔吐」の症状を伝えさせて頂きました。
飼い主の皆様には日頃から愛犬の「普段の状態(元気、食欲、嘔吐の頻度など)」をよく観察し、いち早く異常に気付くことで、当院が提供できる獣医療とうまく連携させ飼い主の皆様とその可愛い家族(達)の幸せな生活の支えになれればと思っております。
このガイドを参考に、危険なサインを見逃さず、愛犬の健康を守ってあげてください。また判断に迷った場合は、自己判断で様子を見過ぎず、かかりつけの動物病院に相談することが最も安全な選択です。
この情報は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の犬の診断や治療に代わるものではありません。愛犬の健康状態に関する具体的な問題については、必ず獣医師の診察を受けてください。