愛犬の下痢は、飼い主様にとって頭を悩ませる非常に厄介な症状の一つだと思われます。その原因は、単純な食べ過ぎから、命に関わる重大な病気まで多岐にわたります。ある調査によると犬の急性下痢の年間発生率は約8%で、実際に動物病院に来られる方はその約4割といった報告がなされています。これは急性の下痢症状がみられたとしても時間経過とともに症状が改善し、そのまま治ってくれることも少なくなくありません。しかし中には時間とともに症状が悪化する場合もあります。愛犬の下痢の症状が夜間救急に来るべきか、診療時間内に丁寧に検査をした方がいいのか、様子を見ていても大丈夫そうなのか、少しでも不安な気持ちを解消できるように本コラムでは当院の「犬の下痢」の緊急性に関する当院の判断基準をお伝えしようと思います。愛犬の様子を冷静に観察し、適切な対応をとるための参考にしてください。ただし、緊急性がなさそうであっても心配な場合は必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
コラムの内容
- 緊急性が高く、直ちに病院へ行くべき「下痢」の症状とは?
- 一般外来で検査・治療が必要な「下痢」の症状
- 動物病院ではどんなことをするの?検査・治療の流れ
- まとめ
緊急性が高く、直ちに病院へ行くべき「下痢」の症状とは?
緊急性のある「下痢」の症状のポイントは以下の通りと考えてください。
- 強い下痢症状がみられる場合
- 体温や意識状態、呼吸状態の変化など強い全身症状がみられる場合
- 強い腹部痛がみられる場合
- 異物や中毒物質を食べた可能性がある場合
以下の症状が一つでも見られる場合は、夜間や休日であっても、ためらわずに救急をはじめ対応可能な動物病院へ連絡し、指示を仰ぐことをお勧めします。
緊急性が高いと考えられる場合の主な症状
下痢の性状:
- 下痢に大量の血液が混じる(鮮血便、ジャム状の便)
- 黒色タール状の便(上部消化管からの出血を示唆)
- 激しい水様性の下痢が止まらない
全身症状:
- ぐったりして起き上がれない、呼びかけへの反応が鈍い(虚脱・ショック状態)
- 意識が朦朧としている、あるいはけいれん発作を起こしている
- 高熱(40℃以上)または異常な低体温(手足が冷たいなど)
- 呼吸が異常に速い、または苦しそう
- 歯茎や舌の色が白い、または紫色(粘膜蒼白、チアノーゼ)
- 激しい嘔吐を伴う
- 食欲がほとんど、あるいはまったくない状態が続いている
腹部の症状:
- お腹がいつもより張っている(腹部膨満)
- 触るとキャンと鳴くなど、強い痛がる素振りを見せる
強い下痢が主症状の場合に考えられる主な原因
- ウイルス感染症(犬パルボウイルス感染症など)
- 急性出血性胃腸炎
- 異物の誤飲による腸閉塞や消化管穿孔
- 中毒(タマネギ、チョコレート、化学物質など)
- 急性膵炎
- 胃捻転・腸重積
- 重度の臓器不全(腎不全、肝不全など)や腫瘍など
緊急性は低いが、一般外来で検査・治療が必要な「下痢」の症状
ここでは直ちに命の危険があるわけではありませんが、何らかの病気が隠れており、放置すると悪化する可能性がある場合の下痢の症状をご紹介します。数日中に動物病院を受診し、原因を特定するための検査と適切な治療を受けましょう。
一般外来で検査・治療を行うべき「下痢」の症状は、強い下痢あるいは全身症状はみられないものの慢性的あるいは反復的な下痢が繰り返される場合になります。ただし体力や抵抗力の弱い子犬や老犬の場合は要注意、低血糖や低体温などを伴い場合によっては緊急性の高いものになる場合があります。
緊急性は低いが、一般外来に来ることが推奨される主な症状
下痢の性状:
- 下痢や軟便が3日間以上続いている
- 週に何度も下痢を繰り返す
- 便に少量の血液やゼリー状の粘液が混じる状態が続く
全身症状:
- 元気や食欲が以前より落ちた(完食しない、遊びたがらないなど)
- 時々嘔吐することがある
- 以前と比べ体重が減ってきた
- 毛ヅヤが悪くなった
- 落ち着かない状態が増えた
嘔吐が主症状の場合に考えられる主な原因
- 消化管内寄生虫(回虫、鞭虫、ジアルジアなど)
- 食物アレルギー、食物不耐症
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 膵外分泌不全(EPI)
- ストレス
- 軽度の細菌性腸炎
- 腫瘍(高齢の場合)
※これらのチェックリストはあくまで目安です。愛犬の「いつもと違う」は、飼い主様だからこそ気づける大切なサインです。不安な場合は、迷わず動物病院にご相談ください。当院は年末年始も含め365日、通常診療と救急外来を行っております。愛犬に危険なサインがみられた際には早めのご相談をお願い致します。
動物病院ではどんなことをするの?検査・治療の流れ
「病院で何をされるんだろう?」と不安に感じる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。ここでは、オオツ動物病院において下痢で受診された際に行う一般的な検査や治療の流れをご説明します。
- 問診: 飼い主様から、下痢の状況(いつから、回数、便の状態など)、元気や食欲、普段の食事内容、誤食の可能性などについて詳しくお話を伺います。診断のための最も重要な情報となりますので、できるだけ詳しく教えてください。
- 身体検査: 聴診、触診、体温測定などを行い、全身の状態をチェックします。脱水の程度や腹痛の有無などを確認します。
- 糞便検査: 便を顕微鏡で観察し、寄生虫やその卵、異常な細菌がいないかなどを調べます。基本的に院内で採材した便を用いての検査となります。場合によりPCR検査などをお勧めする場合があります。
- 血液検査: 体の内部で何が起こっているかを知るための重要な検査です。炎症の程度、脱水、貧血、内臓(肝臓、腎臓、膵臓など)の機能に異常がないか、血中のアルブミンの低下がないかを調べます。
- 画像検査(レントゲン・エコー): レントゲン検査では、異物の誤飲や腸閉塞の有無を確認します。エコー(超音波)検査では、お腹の中の臓器の状態や腸の動き、腫瘍の有無などを詳しく調べることができます。
- その他の検査: 上記の検査で診断がつかない場合、より詳しく調べるために鎮静下で穿刺吸引や麻酔下で試験開腹による細胞、組織を採取して調べる病理検査などを行うことがあります。
主な治療法
検査結果に基づき、愛犬の状態に合わせた治療を行います。
内科療法:
- 点滴療法: 脱水や電解質の異常を補正します。下痢が激しい場合は絶食・絶水とし、点滴で水分の補給をします。
- 薬物療法: 制吐剤(吐き気止め)、下痢止め、胃酸分泌抑制剤、抗生剤などを症状や原因に応じて使用します。
- 食事療法: 高繊維食や低脂肪食、消化の良い療法食に変更したり、アレルギー対応食を試したりします。
外科手術:
- 異物や腸重積、腫瘍などが原因の場合は、緊急手術が必要になることがあります。
費用の目安
初診料と基本的な検査(糞便検査、血液検査など)で、5,000円〜20,000円程度が目安となります。ただし、夜間救急や、特殊な検査、入院・手術が必要な場合は、費用が大きく変動します。追加で詳しい検査や処置が必要な場合は、必ず事前に獣医師から丁寧にご説明し、ご納得いただいてから進めますのでご安心ください。
まとめ
犬の下痢は日常的に珍しくはない症状ですが、その裏には様々なサインが隠されてる場合があります。下痢の症状自体を止めることは大事なことですが、それ以上に大切なことは「下痢」が「単なる症状」ではなく「隠された疾患からのサイン」である場合、いち早く気付き対応することです。
その為にも飼い主様が日頃から愛犬の「普段の状態(元気、食欲、便の硬さや太さなど)」をよく観察し、変化にいち早く気づいてあげること、それを当院が提供できる獣医療とうまく連携させ飼い主の皆様とその可愛い家族(達)の生活の質を向上させることが今回のコラムの目的となります。
このガイドを参考に、危険なサインを見逃さず、愛犬の健康を守ってあげてください。また判断に迷った場合は、自己判断で様子を見過ぎず、かかりつけの動物病院に相談することが最も安全な選択です。
この情報は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の犬の診断や治療に代わるものではありません。愛犬の健康状態に関する具体的な問題については、必ず獣医師の診察を受けてください。